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事例で見る「良い借入」のはずが ― 想定した収益が出なくなったときの立て直し方

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投稿日2026.07.16

前回の記事では、「良い借入」と「悪い借入」の違いについてお話ししました。

見るべきは借入の「量」ではなく「質」であり、問題の本質は「借入があること」ではなく「借入に見合った利益が出ていないこと」にある、というお話です。

今回は、実際にご相談いただいた事例をもとに、「良い借入」のはずが、想定していた収益が出なくなったとき、どう立て直したかをご紹介します。

借入をする際、多くの経営者様は「この投資でどれだけの利益が見込めるか」を事前に試算しますし、金融機関の審査でも事業計画の実現可能性は厳しく確認されます。

金利が上昇局面にある今は、なおさらその精度が問われるようになっています。

それでも、実際に走り出してみると、その想定が思わぬ形で崩れてしまうことがあります。

事例:想定した収益が出なくなったときに、どう立て直すか

倉庫の賃貸事業を営むある会社様から、資金繰りについてご相談をいただいたことがあります。

その会社は、複数の倉庫物件を取得し、賃貸に出すことで収益を上げるビジネスモデルを展開していました。物件を増やすたびに借入も増えていき、ご相談をいただいた時点での借入金残高はかなり大きな金額に膨らんでいました。

試算表や残高試算をひと目見ると、「これだけの借入があれば、資金繰りが厳しくなるのも当然だろう」と感じてしまいそうな水準です。実際、経営者ご自身も「借入が多すぎるのではないか」「これ以上借りるべきではないのではないか」と、借入そのものに対する漠然とした不安を抱えていらっしゃいました。

しかし、決算書と試算表を丁寧に確認していくと、様子が違うことが見えてきました。

保有している現預金と、所有している土地の評価額を合わせれば、借入残高に見合うだけの裏付けは十分にあったのです。つまり、バランスシート全体で見れば、借入の「量」自体が問題だったわけではありませんでした

原因は「収入と返済のズレ」だった

では、何が資金繰りを圧迫していたのか。

原因を掘り下げていくと、一部の物件でテナントが退去し、その後の借り手がなかなかつかず、空室のまま時間が経過していたことがわかりました。

物件取得の意思決定をした時点では、「これだけの賃料が継続的に入ってくる」という前提のもとで返済計画が組まれています。ところが、テナントが抜けたことで、その前提が崩れてしまっていたのです。

想定していた賃料収入が入らない一方で、借入金の返済は当初のスケジュール通りに続いていく。この「収入と返済のズレ」こそが、資金繰りを圧迫していた本当の原因でした。

ここでまず行ったのが、テナントが退去した理由の精査です。物件そのものに構造的な問題があったのか、賃料設定が近隣相場と比べて割高になっていたのか、あるいは景気動向や業界特有の事情によるものだったのか。

原因によって、その後に打つべき対策はまったく異なります。

打ち手①:賃料の見直しと、保有・売却の見極め

精査の結果、その物件については、近隣の賃料相場そのものが緩やかな下落傾向にある中で、従来の賃料水準を維持したまま募集をかけていたことが、テナントがつきにくい要因のひとつになっていることが見えてきました。

ここで、単に「賃料を下げればいい」という話では済まない、もう一段深い論点が出てきます。

近隣相場が下落傾向にあるということは、当初この物件を取得したときに見込んでいた収益力そのものが、時間の経過とともに目減りしている可能性がある、ということです。

賃料収入が下がれば、当然その物件が生み出すキャッシュフローも下がります。そして、収益還元的な見方をすれば、物件の資産価値そのものも、当初の評価より下がっていく可能性がある

つまり、「この先も、この物件は借入に見合うだけの資産価値を維持できるのか」という、より本質的な不安がそこにはありました。

この論点があったからこそ、検討の選択肢は「賃料を下げて埋める」の一択ではありませんでした。

実際には、大きく次の3つの選択肢を並べて比較しています。

  • 現行の賃料水準を維持したまま、テナントがつくのを待つ
  • 賃料水準を近隣相場に合わせて下げ、稼働率を上げて保有を続ける
  • 相場下落が構造的なものであれば、保有を続けず、然るべきタイミングで売却して借入を圧縮する

保有を続ける前提で議論を進めるのではなく、「そもそも持ち続けるべき物件なのか」という問いを一度テーブルに載せた上で、賃料シミュレーションと返済計画を照らし合わせました。

近隣相場の下落が一時的な需給の緩みによるものか、それともエリア全体の構造的な地盤沈下によるものか。ここの見極めが、保有を続けるか、売却に動くかを分ける分岐点になります。

今回のケースでは、下落幅がまだ限定的であったこと、賃料を見直せば十分に借入返済をまかなえる水準のキャッシュフローが見込めたこと、そして急いで売却に動けば買い叩かれるリスクが高いタイミングであったことから、「今すぐ売却」ではなく、「賃料を見直して稼働率を戻し、資産価値と収益力の推移を見ながら、売却のタイミングを引き続き計っていく」という判断になりました。

売却という選択肢を捨てたわけではなく、いつでも動けるようにしながら、まずは保有を続けて立て直しを図る、という位置づけです。

打ち手②:借入条件の見直しで返済負担を軽くする

もうひとつ、並行して着手したのが、借入条件そのものの見直しです。

保有している借入の中には、金利水準や返済条件があまり芳しくないものが含まれていました。取得時期や取引の経緯によって、金融機関ごとに条件がまちまちになっているのは、複数物件を持つオーナー様にはよくあることです。

ちょうどそのタイミングで、新規開拓のために営業をかけてきていた金融機関がありました。通常であれば「今は間に合っています」で終わってしまう話ですが、条件の悪い借入を抱えていましたので、逆にその金融機関に対して、既存の借入の借り換えを持ちかけてみることにしました。

新規の取引先を獲得したい金融機関側にとっても、他行の借入を自行に乗り換えてもらうことは十分にメリットのある話です。

決算内容と物件の担保評価に問題がないことを示した上で交渉を進めた結果、金利条件の改善とあわせて、返済期間の見直しによる毎月の返済額の緩和にもつなげることができました。

空室物件の稼働率改善によって収入面を立て直しつつ、返済面の負担も同時に軽くしたことで、資金繰りは無理なく安定する方向に向かっていきました。

営業に来る金融機関を「今は必要ないから」と一律に断ってしまうのは、少しもったいない対応です。

既存の取引条件を見直す機会として活用できないか、という視点を持っておくと、こうした場面で交渉のカードとして使うことができます。

この事例から学べること

この事例からお伝えしたいのは、「借入が多いこと」と「資金繰りが悪化していること」は、必ずしもイコールではないということです。

借入をする時点では、当然「この物件を取得すれば、これくらいの賃料収入が見込める」という前提のもとで判断がなされます。

しかし、実際の経営では、その想定通りにいかないことも少なくありません

空室が増える、賃料相場が下がる、修繕費が想定以上にかさむ。こうした変化によって、借入に見合うだけのリターンが得られなくなることは、不動産賃貸業に限らず、十分に起こり得ることです。

このときに大切なのは、「借入が多いから悪い」と単純に結論づけてしまわないことです。借入の額だけを見て「圧縮すべきだ」と考えてしまうと、本質的な問題を見誤ってしまいます。

このケースで本当に必要だったのは、ただ借入を減らすことではありませんでした。

  • 賃料水準を近隣相場に合わせて見直し、空室を埋めて稼働率を上げること
  • 金利条件や返済条件が芳しくない借入については、営業に来ている金融機関を含めて他行への借り換えを検討し、毎月の返済負担そのものを軽くすること
  • 資産価値の下落が構造的なものかどうかを見極めながら、保有を続けるか、売却して借入を圧縮するか、そのタイミングを常に計り続けること

つまり、借入そのものを敵視するのではなく、借入に見合うだけの収益力を、いかにして取り戻すか。そして、その収益力の裏付けとなる資産価値が、この先も維持できるのかどうかを冷静に見極め、保有と売却のどちらが合理的かを、状況に応じて選び直していくこと。ここまで含めて考えることが、資金繰り改善の本質でした。

借りた資金が当初想定していたリターンを生まなくなったとき、それをどう修正し、どう収益を回復させ、どう返済条件を整え、そしてどのタイミングで持ち続けるか、手放すかを判断するか

そこまでを見据えて考えることこそが、借入を経営の武器として活かすうえで欠かせない視点だと、私は考えています。

良い借入も、想定が崩れれば悪い借入に転じかねません。だからこそ大切なのは、借入を組んだ時点で満足せず、状況の変化に応じて「この借入は今も質を保っているか」を定期的に問い直すことです。

「借入残高が多くて不安」「今の借入が良い借入なのか悪い借入なのか分からない」。このような経営者様は、ぜひ一度ご相談ください。

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