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投稿日 2026.10.23

値上げ交渉が怖いとき ― 自社の数字を見える化して、選択肢を増やす

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事業内容

「待てば戻る」が通用しにくい時代になりました

資金繰りが苦しくなったとき、返済を少し待ってもらう方法があります。「リスケ」と呼ばれる、返済条件の変更です。

立て直しの時間を確保し、その間に売上の回復を待つ。コストが安定していれば、こうした考え方もありました。

ただ、コストや金利が上がる局面では、前提が変わります。

元本の返済を止めても、適用金利が上がれば利払いは増えます。仕入や人件費、外注費が増えることもあります。時間を確保するだけでは、利益が残りにくい状態が続いてしまいます。

売上が増えても、利益が増えるとは限らない

インフレ下では、売上が増えても、材料費などがそれ以上に増えることがあります。その場合、売上に占める粗利の割合は下がります。

「前年より売上が増えたから大丈夫」とは、売上だけでは判断しきれません。

価格の見直しも、選択肢に

では、何を軸に考えればいいのか。

私たちは、経営計画の中で「価格転嫁」を考えることが大切だと考えています。上がったコストを、販売価格に反映することです。

コストを削ることだけでなく、価格の見直しにも目を向けたいところです。

実際、国(中小企業庁)の2026年3月の調査では、価格交渉が行われた割合は90.7%でした。

値上げの相談は、もはや特別なことではありません。

※90.7%は、価格交渉が不要だった回答を除く割合です。

それでも、値上げは怖い

頭では分かっていても、取引先に値上げを切り出すのは、ためらうこともあると思います。

「取引を切られたらどうしよう」

その怖さには、「失注したら何が起きるのか分からない」という不透明さもあります。分からないから、最悪の想像ばかりが膨らんでいく。

裏を返せば、影響が分かると、不安を整理しやすくなるということです。

ここからは、その「分かる」ための数字の見方を3つご紹介します。

1. 取引先ごとの「本当の利益」を見る

まず、取引先を売上の大きさで並べてみます。

次に、限界利益(売上 − 変動費)の大きさで並べ直してみる方法があります。

補足:「限界利益」とは?

限界利益 = 売上 − 変動費

会社の費用は、大きく2つに分けられます。

変動費:受注量に応じて増減する費用
例)材料費、外注費、仕入、運賃・燃料費など

固定費:受注量が減っても、短期的にはかかる費用
例)社員の給与、事務所家賃、リース料、減価償却費など

売上から変動費だけを差し引いたものが、限界利益です。

言いかえると、その仕事が固定費と利益をどれだけ支えているかを見る金額です。

この限界利益で固定費をまかない、残った分が営業利益になります。

最終的な利益や、手元の現金そのものとは異なります。

たとえば、売上1,000万円の工事を考えます。材料費・外注費などの変動費が800万円なら、限界利益は200万円です。

売上に占める割合で見ると、限界利益率(限界利益 ÷ 売上)は20%です。

粗利だけでは分かりにくいこと

よく使われる「粗利(売上総利益)」と似ていますが、同じではありません。

建設業では、工事原価に現場社員の給与や機械の減価償却費が含まれることがあります。こうした費用は、仕事の量が減っても、すぐには減らない場合があります。

粗利だけでなく限界利益も見ると、1件ごとの仕事が固定費をどれだけ支えているか分かります。価格の見直しを考えるときの手がかりになります。

取引先ごとの採算を比べる

すると、意外なことが見えてきます。売上は大きいのに利益はほとんど出ていない取引先。手間ばかりかかって、実は赤字になっている取引先。

「一番失いたくない」と思っていた先でも、残る金額を確かめると、印象が変わることがあります。

ただし、限界利益がプラスなら、その取引も固定費の支払いを支えていますので、取引がなくなれば、利益が増えるとは限りません。

売上の順位と、利益の順位は違う。

この違いが見えると、「どこから価格を見直すべきか」の優先順位を考えやすくなります。

2. 「何%失注しても、値上げしたほうが得か」を知る

「値上げすると、注文が減るかもしれない」。この心配も、数字で比べてみることができます。

販売価格1万円、1個当たりの材料費などが8,000円の商品で考えます。

100個売ると、売上は100万円です。材料費など80万円を払うと、20万円が残ります。

ここで、販売価格を5%上げて、1万500円にするとします。1個売るごとに残る金額は、2,000円から2,500円になります。

もし注文が100個から80個に減っても、2,500円×80個=20万円です。

この例では、数量が20%減っても、材料費などを払った後に残る金額は同じです。

項目

値上げ前

販売価格5%アップ・数量20%減

1個の販売価格

10,000円

10,500円

売れた数量

100個

80個

売上

100万円

84万円

材料費などの合計

80万円

64万円

差し引き残る金額(限界利益)

20万円

20万円

※1個当たりの材料費などは8,000円で一定としています。家賃や月給なども同じなら、営業利益も変わりません。

この例で減るのは数量が20%、売上が16%です。「売上が20%減っても同じ」という意味ではありません。

参考:販売価格を上げたとき、数量が何%減るまで同じ金額が残るか

自社の数字に近い行と、検討している販売価格の値上げ率の列を見てください。交わった数字が、値上げ前と同じ限界利益額になる数量減少率です。

値上げ前の限界利益率

販売価格を3%上げる

販売価格を5%上げる

販売価格を10%上げる

10%

23.1%

33.3%

50.0%

20%

13.0%

20.0%

33.3%

30%

9.1%

14.3%

25.0%

40%

7.0%

11.1%

20.0%

※計算式:数量減少率=販売価格の値上げ率÷(値上げ前の限界利益率+販売価格の値上げ率)。小数第2位を四捨五入。

この表は、1個当たりの費用が変わらない前提の試算です。材料費や商品の組み合わせが変わる場合は、実際の条件で計算し直します。

同じ値上げ率で比べると、限界利益率が低いほど、値上げ前と同じ限界利益額を保てる数量減少の幅は大きくなります。

利益が残りにくい取引でも、価格を少し見直すことで、受注が減った場合の影響を和らげられる可能性があります。

もちろん、取引先との関係や今後の受注も気になるところです。こうした数字を一つの目安にすると、「注文が減ったらどうしよう」という不安を、具体的に考えやすくなるのではないでしょうか。

3. 「最悪のケース」を先に数字にしておく

もし、ある取引先を失ったら。

  • 資金は何か月もつのか

  • 固定費はどこまで削れるのか

  • 売上の何割を、その1社に頼っているのか

これを事前に把握しておくと、漠然とした不安を具体的な見通しに変えやすくなります。

「失ったら終わり」ではなく、「資金は○か月もち、それまでに対応が必要」と考えられるようになります。

上位1社への依存度が高いことが分かれば、中期的な経営課題として整理できます。取引先を増やすなど、対応を計画に落とし込むこともできます。

さらに、この試算を事前に金融機関と共有しておくことも、備えの一つです。

受注が減った場合の影響と、その後の対応を説明する材料になります。事前に状況を伝えておくと、必要な相談を進めやすくなることがあります。

数字が見えると、値上げの不安を整理しやすくなる

ここまでご紹介した数字は、日々の帳簿や取引資料から整理できるものです。取引ごとの売上や費用を並べると、見えてくることがあります。

値上げの怖さは、勇気や交渉術だけで乗り越えるものではないと、私たちは考えています。

自社の数字を知ることで、漠然とした怖さを「見通し」に変えていくことができます。

  1. 取引先ごとの採算

  2. 受注が減ったときの影響

  3. 厳しい場合の資金繰り

この3つを見える化できると、価格を相談する先や、備えておきたいことを考えやすくなります。

数字に語らせる準備ができたとき、値上げは具体的に検討できるものになっていくのではないでしょうか。

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参考

経済産業省・中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果」(2026年6月公表)

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